ホーム » 首が傾くエンセファリトゾーン症
病気

首が傾くエンセファリトゾーン症

エンセファリトゾーンってなに?

エンセファリトゾーン カニキュリ( Encephalitozoon cuniculi:通称Ez、エンセ)と呼ばれる寄生虫のことです。

どんな子がなるの?

エンセファリトゾーンは尿を介して感染するため、親が感染している場合、子の多くは感染してしまいます。胎盤感染もすると言われており、報告によりますが、国内のウサギの半分以上が感染しているとされています。そのため、どの子でもなる病気だという認識を忘れてはいけません。

感染をしたからといって必ずしも発症するわけではありません。体調、ストレスのかかり具合などによって発症するかどうかは決まるようで個体差もかなりあると思われます。

どんな症状が出るの?

一般的には、眼がゆれる(眼振)から始まり、首が傾き(斜頸)、ひどい場合は、ぐるぐる転がって(ローリング)歩けない状態になります。
これは、エンセファリトゾーンが中枢神経である脳の前庭と呼ばれる場所で悪さをするために起こる症状です。
それ以外に、腎臓にも寄生するため、腎機能へも影響を与えることがあります。

迷入する

エンセファリトゾーンの恐ろしいことの一つに迷入することがあるということです。迷入とは、本来寄生する場所ではない体の部位に、誤って入り込むことで、入り込んだ場所で悪さをするため、どんな症状が出てもおかしくなく、突然症状が悪化することもあります。よく耳にするのが、眼に迷入し、ブドウ膜炎(眼の炎症)を起こすといったことです。

治るの?

わかりやすく表現するとエンセファリトゾーンは脳を食い荒らしていくため、ダメージを負った部位の完全な再生は不可能だということです。そのため、斜頸などの症状が出てからすぐに治療を行わないと、治療を行ったとしても首の傾きが戻らないことがあるどころか、死亡することもあります。
また、活動的なエンセファリトゾーンを薬によって、やっつけることができても、活動的でない(眠っている)エンセファリトゾーンには薬が効かないため、体から完全に排除することが難しい病気です。そのため、一度治ったとしても再発する可能性は生涯つきまといます。

診断の仕方は?

エンセファリトゾーンの確定診断は死後の脳の病変を見ること以外にありません。そのため、生きてる間は、状況証拠や他の病気を除外することによって診断を行います。

状況証拠を集める

その1:症状

眼振、斜頸という特徴的な症状はエンセファリトゾーンの可能性が高いと考えます。

その2:血液検査

腎臓の数値(BUN,Cre)CPKが上昇することもあります。

その3:抗体価検査

エンセファリトゾーンに接触したことのある子は、エンセファリトゾーンに対して体が免疫物質である抗体を作ります。その抗体が作られていれば、感染している可能性があるということが言えます。ただし、健康な子でも半分以上は感染が成立いるため、この検査結果は非常に曖昧に出てくることが多く、ほとんどの結果がグレーゾーンで返ってくるようなものです。
理想的な抗体価検査は、症状が出る前の健康な時の抗体価と症状が出た時の抗体価を比較し、上昇を確認することです。または、症状が出たときの抗体価と治療後元気になった時の抗体価を比較することです。(ペア血清)

そのため、抗体価検査を元気な時から薦める先生がいたり、費用の面(1万円前後する)や診断精度の低さ、採血量の多さなどから積極的に検査しない先生もいます。

除外診断をする

その1:耳を診る

耳の外側の炎症が中に広がることによっても(内耳炎)によっても斜頸症状がでることがあります。

その2:血液検査

中枢神経系の症状を出すエンセファリトゾーン以外の病気がないかを確認します。

その3:レントゲン

ひどい内耳炎の場合はレントゲンでもわかることがあります。

その4:CT,MRI

脳腫瘍や脳梗塞などの確認や、わずかな内耳炎の診断に役に立ちます。脳の中を診れるのはこの検査のみです。ただし、多くの場合麻酔をかけなればならないことや、費用の問題(検査だけで10万前後が普通)、受け入れ施設が非常に限られている為まだまだ一般的に行われる検査ではありません。しかし、非常に有益な情報が得られることがあることと人間の医療では当たり前のように行われる検査のため、今後の普及が望まれます。

入院治療?在宅治療?

エンセファリトゾーン症を発症すると平衡感覚に異常をきたし、宇宙遊泳(乗り物酔い)のような状態になっていると言われ、物理的にうまく食事がとれなかったり、食欲がなくなってしまうことがあります。自宅での介助が難しい場合は入院治療になることもありますが、ストレスは悪化要因になることもあるため、介助が可能な場合は在宅治療をオススメする病院も多いです。

薬は?

エンセファリトゾーンをやっつける主役の薬「フェンベンダゾール」

エンセファリトゾーンには、ベンゾイミダゾールと呼ばれる系統の抗原虫薬が使われます。一般的には、価格の観点からフェンベンダゾールが使用されることが多いです。入手のしやすさからアルベンダゾールを使用する場合や、体内でフェンベンダゾールに変換されるフェバンテルを使う場合などがあります。どの薬が一番良いかなどの比較研究はされていないため、どの薬でも良いと考えられます。フェンベンダゾールの場合一般的に投薬期間は28日間連続投与になります。注射はなく、経口剤しかないため、飼い主さんが頑張って与えなくてはなりません。

炎症を強力に抑える「ステロイド」

エンセファリトゾーンは脳に炎症を起こすため、その炎症を抑える意味でステロイドを使用します。また、食欲増進作用を利用することもあります。
前述の通り、生きている間にエンセファリトゾーンは確定診断ができないため、脳腫瘍やその他の脳炎などの可能性を考慮し、それに効果のあるステロイドを使用します。副作用としては、多飲多尿や消化管を荒らしてしまうなど、数多くありますが、ステロイド以上に炎症を強くとる薬はなく、うまく使うことができれば非常に強力な味方です。

だだし、エンセファリトゾーン症の時にステロイドは効果がないという報告があったり、ステロイドに嫌悪感を抱く飼い主さんもいるため、使用しない先生もいます。

細菌と戦う「抗生剤」

抗生剤は、エンセファリトゾーンに効くことはありませんが、他の病気(細菌性脳炎、内耳炎)を考慮し、追加されることが多いです。また、免疫力が下がった状態であるため、二次感染の予防にも役に立ちます。

神経の働きをサポート「ビタミンB群」

神経を保護する作用や抗生剤によって腸内細菌のバランスが乱れ吸収不全を補う意味でビタミンB群が追加されることがあります。

胃粘膜を保護する「制酸剤」

ステロイドの使用により、胃粘膜があれるのを防ぎます。人でも、よく「胃薬だしておきますね。」と言われるやつです。

止まった胃腸に動きを与える超有名な「プリンペラン」

ストレスや食欲不振でストップしてしまった胃腸を動かす薬です。(消化管機能異常治療剤)一般的にはメトクロプラミド(商品名:プリンペラン など)やモサプリドが使用さることが多いです。非常にたくさんのウサギに処方される安全性の高い薬です。

失った食欲を取り戻す「食欲増進剤」

人では、花粉症などのアレルギーの際に使用される分類の薬ですが、ウサギでは食欲を増進されることが知られています。ペリアクチンという商品名が非常に有名です。薬剤名はシプロヘプタジンです。

気持ち悪さを取ることを期待「動揺病治療薬」

動揺病とは、乗り物酔いのことです。一般的には処方されることは珍しい部類のお薬だと感じておりますが、エンセファリトゾーン症のウサギは乗り物酔い状態だとおっしゃる先生もいます。あくまでもサポートする可能性のある薬という位置づけです。

自宅でできるケアは?

普段の環境で過ごし、落ち着いた環境を提供する

あれこれ動かすよりもなるべく普段に近い環境のほうがストレスがかかりません。ただし、大きな音や強い光によって症状が悪化したり、びっくりして暴れてパニック状態になることがあります。音を出すことを控えたり、少し薄く暗がりにしたりするのは一つの方法です。

自分の思う方向に動けない…倒れても大丈夫なようにする

足をケージやスノコにはさみながら、ローリングすることにより、足の爪が抜けたり、最悪足の骨を折ってしまうことがあります。タオルなどをうまく活用し、足を挟まないように、壁や角にぶつけてケガをしないように、工夫をしてあげてください。もちろんロフトなど、段差はすべてなくします。あえてケージ内を狭くし行動範囲を狭めることで、本人が動かなくてもすべて近場でそろうようにすることが必要なこともあります。本人の具合により、飼い主さんの様々な工夫、アイデアが必要になってきます。

強制給餌の記事はこちらhttp://usagi-no-heart.jp/paw/

予防することはできないの?

ご自宅に迎え入れた時点で、感染が成立していることが多いため、感染を防ぐことは困難です。感染していない子が感染している子と接触する前後数日間、薬を飲ませることができれば、感染を予防できるともいわれていますが、そもそもその子と相手の子の感染の有無を調べる必要があるため現実的ではありません。

エンセファリトゾーンの薬を生涯飲ませ続けることが出来れば、発症したとしても非常に軽度の症状で収まる可能性は高いですが、活動的でない(発症していない)エンセファリトゾーンには薬が効きません。そのため、発症するまで効かない薬を飲ませ続ける行為への疑問や費用の面などを考えると、事実上発症の予防も困難です。

「あれ?ちょっと眼が揺れてない?」「ん?頭が少し傾いていない?」という微妙な段階でなるべく早期に動物病院へ受診し、薬を飲ませてもらう以外手がありません。エンセファリトゾーンの薬はウサギでも比較的安全性の高い薬の為、迷わず飲ませるのが、肝心です。ウサギを診察する動物病院では通常エンセファリトゾーンの薬は置いてありますが、あまりウサギを診察しない病院だと置いてない場合があります。

About the author

ウサギのハート

このサイトの管理人。ウサギが好きで獣医師になる。勉強のために学生時代からウサギのハートを作り始め、様々なウサギの診察で有名な病院へ実習見学をしたり、専門店へインタビューをしたり、ラビットフードを作り始めたりするちょっと変わった人。十人兎色な考えをこのサイトに記し、ウサギの地位が向上することを願っている。